掛袱紗
 袱紗というと茶の湯で使うものをイメージされる方が多いと思いますが、今からご紹介いたします袱紗は慶事、婚礼や出産、初節句、お年賀、または家の新築などのおめでたい時に広蓋や三方に贈り物をのせ、その上から掛けて使うものです。袱紗には大小いろいろな大きさがあり、また凶事に用いられるものもあります。これらは贈答にまつわる場面や状況の大小によって使い分けます。中でも一番大きなサイズのものは掛袱紗と呼ばれ、寿福の場合に使われることが多いので吉祥の意味を持つ華やかな意匠のものが好まれました。


紺地近江八景紫式部文縫袱紗(全体拡大画像)

江戸時代中期 84cm×67cm
 
 紺地の繻子に金、白、紅など数々の刺繍糸で縫われたこの袱紗は、「近江八景」の「石山秋月」を描いています。画面上には文机を前にした紫式部を見ることができます。
 紫式部については幾つかの伝承が残っておりますが、その一つに石山寺に参詣した折に琵琶湖の湖面に名月が映っているのを見て、「源氏物語」須磨の巻の一節を「今宵は十五夜なりけり・・・」と書き出したと伝えられています。この袱紗はその伝承を見事に表現したものとなっております。



江戸時代後期 76cm×65cm

 現在の橋の開通式と同様、昔も新しい橋が完成した時には盛大に祝いました。地域の長である長老が最初に渡り、これからの永い無事を祈ったのです。婚礼の時の新しい門出になぞらえて作られたものなのでしょう。
 このような掛袱紗は公家社会から武家社会、町人それも豊かな階層へと定着していったようです。本来、贈り物に塵などがつかないように布を掛けたという習慣が時代とともに儀式化し、物を覆うということよりも贈り主の家の格を表すものとなり、図案の凝った装飾性の高いものがみられるようになりました。


江戸時代後期 98cm×67cm

 
 打出小槌は、一振りで何でも望みのものが現れる魔法の小槌です。七福神のひとり大黒天さまも右手に打出小槌を持っており、吉祥模様の一つとされております。
 
袱紗の使い方は、時代によって異なっていたようです。初めは掛けて出して使っていたようですが、袱紗が凝ったものになってくると控え目になり、広蓋の上に贈答の品あるいは目録をのせ、袱紗を畳んでその上にのせて差し出します。受け手は袱紗を観賞し、また畳んで返すのです。



江戸時代後期 76cm×66cm
 
 このように幔幕に紅葉と鳥兜を配した意匠は、「源氏物語」の「紅葉賀」にちなんだもので、贅沢に使われた金糸が優雅な意匠に一層の華やかさを演出しております。雅びな文化を生んだ公家社会への憧れが感じられるようです。
 
贈答という行為はどの民族にでもみることができるものですが、袱紗はまさに日本的な文化であると思います。このような風習は今ではほとんど見ることができなくなりましたが、京都や奈良などの旧家では現在もなお受け継がれているところもあります。
▲今昔美術館TOPページに戻る